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大レリーフ「懐かしい古き浦安」

「アトリエのある自宅に運び込まれた段ボール2箱にも及ぶ、浦安の町の歴史や写真集などすべてに目を通して出した結果が、『浦安は漁師の町だから男が中心と思われがちだが、実は女性が暮らしの中心だった。』でした。『漁師町浦安の女性のどの写真を見ても、明るく朗らかに笑っている。そして、その顔に自信と責任感が見て取れる。』」

目を輝かせて、こう語ったのは、今から11年前の平成10年、まもなく米寿を迎えようという彫刻界の巨匠、富永直樹氏で、現在、浦安市郷土博物館のロビーに掲げられているレリーフの下絵を説明された時のことです。

今ではすっかり郷土博物館の象徴になった大レリーフは、縦2メートル72センチメートル、横4メートル33センチメートルのブロンズ製で、正面に仕事着姿の3人の女性がなにやら楽しげに語り合って歩く姿が大きく浮かび出ています。

周りには軒を接する漁師の家並み、母なる境川、風を受けて走るべか舟、のりや魚の干し場、紙芝居に群がるこどもたち、足下にはタンポポが、空には凧が揚がり、鳶の姿も。さらに額の周りには、豊かな東京湾の復活を願う清らかな海のシンボル「青ギス」の群れが泳いでいます。

タイトルの「懐かしい古き浦安」そのままに、先生が目指した、見る人すべてが楽しくなる富永芸術の集大成とも言われる作品です。

平成12年の10月に日本橋三越本店で開催された「米寿記念の彫刻展」では、メインに展示され、大絶賛を浴びました。

余談ですが、よく彫刻というと、裸婦をイメージされがちですが、富永先生の作品には、裸婦像がないことで有名です。理由として、裸婦の制作は学生時代で卒業したからとも、奥さんに彫刻の展覧会は女性の裸が多くて、銭湯に行ったみたいとからかわれたためとのエピソードが伝わっています。

なお、昭和の時代に最も親しまれた家庭用の黒電話四号機は、先生のデザインです。

平成元年には文化勲章を受章され、芸術の道一筋に歩まれ、浦安にも大きな足跡を残された先生は、3年前に93歳で亡くなられましたが、先生の作品は大レリーフのほか、郷土博物館の前庭に金色の「慈愛」の母子像、さらに文化会館のホワイエにも「天地への賛歌」、「クリスマスイブ」があります。

昨年は、浦安が埋め立ての一大転機となった「黒い水事件」から半世紀、また今年は、この地に「浦安」と命名されて、120周年です。

新年度が始まる4月、「懐かしい古き浦安」に思いをはせつつ、現在の浦安市の基礎を築いてくれた先人、先輩たちに感謝しようではありませんか。

 

浦安市長 松崎秀樹
(広報うらやすNo.881 2009年4月1日号に掲載)

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